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毎日をおもしろがる人のメディア -ルガロ-

スーパー落語 「絵馬」

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熊八
「てえへんだ、てえへんだ」

隠居
「なんだい、騒々しい」

熊八
「こりゃご隠居、あいすまねえ。なにしろ、てえへんなことがありやしてね」

隠居
「いったいなんだね。お前の女房がまたぞろスリッパでも産んだのかい」

 熊八
「いくらなんでもそいつはひでえや」


隠居
「ほっほっほ」

熊八
「そんなの3日も前の話でさあ」

隠居
「おやおや、あたしも耄碌したもんだ。歳はとりたくないねえ」

熊八
「そんなことより、ちょうどいいや、ここはご隠居の知恵を拝借させてもらおうかな

隠居
「どうしたんだい」

熊八
「それがね。今度深川に珍しいもんを食わせる屋台が出たってんですよ」

隠居
「ふむ、噂は聞いてるよ」

熊八
「さすが、耳がはええや」

隠居
「昔はこの耳も蝦夷地まで行って2日で帰ってきたもんさ」

熊八
「おでれえたね。あっしの耳なんざ白河の関くらいが関の山」

隠居
「若いのに難儀な話だ」

熊八
「まったくでさ。こないだなんか、なかなか帰ってこねえと思ったらあっちで野良耳と所帯なんて作っちまってて、連れて帰るのにひと苦労ですよ」

隠居
「盛りのついた耳ほど世話を焼かせる代物もないからねえ」

熊八
「いや、ホント」

隠居
「耳自慢はこれくらいにして、本題に入っておくれ」

熊八
「おっと、いけねえ。いやね、六兵衛の野郎がまたとんでもねえことを言い出しやがって」

隠居
「やっこさんのことだ、おおかた口からでまかせだろう」

熊八
「あっしもそう言ってやったんですよ。でもあのトンチキ、今度ばかりは天地神明に誓って真実だ、て言い張ってきかねえんだ」

隠居
「ほう。さっきの深川の屋台がなんとか、てのと関係あるのかい」

熊八
「ええ、そうなんです。なんでもその屋台てのが飛びっきりうまい羽子板を食わせる、て言うんでさあ」

隠居
「羽子板。近頃はトンと上物を拝んでないねえ。築地のほうでもなかなか揚がらないらしいじゃないか」

熊八
「でしょ。だから言ってやったんだ。どうせ羽子板に見せかけたただの絵馬だろう、て」

隠居
「よくある話だ」

熊八
「ところが血相変えて反論してくるんだ。この目でたしかに見た、串焼きのいい匂いもしたんだ、て」

隠居
「おやおや」

熊八
「で、しょうがねえから確かめに行ってやろうかと思いやしてね。万が一にもホントだったら、お上に追い散らかされる前に味わっておきたいし」

隠居
「よく言った、それでこそ若い衆だ」

熊八
「ところがですよ、ご隠居。なんでも八丁堀の同心がさっそく捕縛に向かったそうなんだ」

隠居
「まったくお役人は野暮ことをするもんだ。幾日くらいは庶民のために見て見ぬふりしてくれてもよさそうなもんだがね」

熊八
「そこで町内で額を寄せ合って一計を案じたんですよ」

隠居
「どんな思案だい」

熊八
「先回りして髪結い職人を立たせておいて、木っ端役人たちが通ったら手荒く歓迎してやろう、て寸法でさ」

隠居
「気に入った。あたしゃ、すっかり気に入ったよ」

熊八
「そうこなくっちゃ。さすが神田の塗り座蒲団と呼ばれているだけはおありだ」

隠居
「で、髪結いの屋号は決めてあるのかい。お役人の足をとめるからには気の利いた屋号が不可欠だよ」

熊八
「そこなんでさ。なっかなかピンとくるものがなくて。で、往生して走り回ってたんです」

隠居
「なるほどね。よし、あたしに任せなさい。そうさね……」

熊八
「ごくり」

隠居
「うん、そうだ。これがいい」

熊八
「ご隠居、いってえなんです」

隠居
「うん。『炙りパスタの店 ゆるふわO・T・A・E』でどうだい」

熊八
「そいつは無国籍系創作料理ですかい」

隠居
「もちろんじゃないか」

熊八
「決っまりい」

テンテンテレツクテン
ドンドン