スーパー落語「六兵衛 お白洲語り」
まずはこちらから。
ええ、ええ。
確かにオイラが六兵衛です。
生業は大工でさ。
弥五郎親方ンとこで世話になっとりやす。
あの日のこと、ですか。
はあ。
いや、決して隠し事はいたしやせん。
だいたい、こっちだって迷惑してるんですよ。
熊八の兄貴があんな騒ぎにさえしなけりゃ……。
羽子板なんて知りませんよ。
そんなこと言った覚えは金輪際ありやせん。
ホントですって。
兄貴の聞き間違いなんです。
オイラだって江戸っ子だ、羽子板売りなんか目にした日にゃ、きっちり番所に届けま
あんなのはこの世にあっちゃいけねえもんだ、そうでしょ。
ましてやお上が厳しく取り締まってる代物だ、下手に関わっちゃあ命がいくつあって
しがねえ大工でも、それくらいの分別はありやすぜ。
お侍様は最近こちらに赴任されたからご存じないでしょうが、こう見えてもオイラは
先だっての付け火の下手人、あれを取り押さえたのはなにを隠そう、このオイラなん
鼻の下伸ばして往来でメス犬とまぐわってやがったところをふん縛って、番所に突き
今でも太ももに咬み跡が残ってるくらいなんですから。
野郎、キャンキャン吠えたてて立ち向かってきましたからね。
野良公のくせに生意気なやつでしたよ。
それにほら、例の追い剥ぎ。
そう、夏頃このあたりに出没していた。
あれを退治したのもオイラなんです。
味噌塗って食ってやりました。
田楽みたいなナリしてやがったが、食ってみるとこれがまた田楽みてえな味がしやが
ふざけた野郎でしたよ。
ま、オイラに出くわしたのが運の尽き。
ここいらの居酒屋は縄張りみたいなもんですからね、縄のれんをくぐった途端に、あ
席に座るやいなや店の親爺を呼び、オイラが来たからにはもう安心だ、任せてくれろ
相当怖い思いをしてたんでしょうな。
人間、恐怖も度が過ぎると表情が虚ろになると言いやすが、まさにそんなツラでした
オイラと追い剥ぎの大立ち回りが済んだあとも、呆然と立ちすくんでガタガタ震えて
これでわかっていただけやしたかね。
オイラは羽子板なんざ知りません。
とんだ濡れ衣です。
あのとき深川でオイラが見かけたのは、羽子板の屋台ではありやせん。
じゃあなんだって。
あれはね、お侍様。
ドンドン
テンテケテンテケテン
ドンドン