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サンデー話芸講座 vol.33

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司会
「というわけで、二葉亭五麺さんの代表作『絵馬』をご覧いただきました。いかがでしたか」

タレント
「初めて見ましたが、なんて言うかこう、ジンときちゃいました」

解説
「素晴らしい噺でしたね」

司会
「解説の井藤さん、この『絵馬』なんですが、落語ファンにはたまらない仕掛けが施されているんだとか」

解説
「そうですね。落語に通じている方なら思わずニヤリとしてしまうような引用、今風に言えば古典に対するオマージュが捧げられた作品なんです」

司会
「なるほど。そのあたりは追々、解説していただきましょう。ゲストの東さん、どのあたりが面白かったですか」

タレント
「まずは、熊八の奥さんがスリッパを産むとかなんとかいうところですね。そんな馬鹿な話がありますか。人を食ったご隠居さんですよ、うふふ」

司会
「あー。東さんは『ヤバいくらいスリッパ』をご存じありませんか」

解説
「あそこは古典落語の名作『ヤバいくらいスリッパ』を踏まえた部分なんですよね。知らない方にはちょっと笑えないかもしれません」

タレント
「え、そうなんですか。はあ」

司会
「私は二人の耳自慢がおかしくてたまりませんでしたね。笑いをこらえるのが大変で

タレント
「ああ、あそこ。僕もですよ。耳が蝦夷地でしたっけ、そんな場所まで行って帰ってくるとか、ありえませんよ。挙げ句の果てに盛りのついた野良耳が登場したり。がはは」

解説
「これは興味深い指摘です。東さんは現代的な捉え方をされたわけですね。落語的な文脈に則すと、あの噺の時代背景では蝦夷地は禁足地なんです。そこに旅の耳がずけずけと入ってしまう、という可笑しみなんですね」

司会
「幕府の威光もなんのその、庶民の活気の表れなんですよね」

解説
「そうです」

タレント
「え、あれ。はあ。あれ」

司会
「ほかに面白かったところはありませんか」

タレント
「ほかですか。うー、うー、あっ。羽子板。羽子板。なんか食べたらいけないような流れでしたよね。羽子板を。羽子板を食わせる屋台が悪いみたいな。あれはないでしょ。羽子板ですもん」

解説
「おっしゃる通りです」

タレント
「ですよね、ですよね」

司会
「ええ。羽子板のようにごくごくありふれた食べ物が禁じられている描写がまた、笑いを誘うんですよね」

タレント
「へ」

解説
「そのへんにいくらでも生えている羽子板をさも高級品であるかのように持ち上げる構成。実に見事です。ある種の不条理をさらりと演出した、落語の醍醐味とも言うべき技巧でしょう」

司会
「これが功を奏して、あとの絵馬が逆につまらないもののように受け止められてしまう。本末転倒の面白さと言えばいいのか。いやはや」

タレント
「……」

解説
「そこでトドメの屋号ですよ。ご隠居さんの科白が秀逸。昔聞いたときは、ここでそうくるか、と膝を打ちましたね」

司会
「あんなでたらめなアドバイスをされたら、わたしが熊八さんならひっくり返ってしまいますよ。怒りだしても不思議じゃない。ねえ、東さん」

タレント
「あそこねえ。うんうん。あそこはビックリしましたよ。髪結いって今で言えば床屋さんでしょ。床屋さんを待ち伏せさせる素頓狂さもアレだけど、なんですか『炙りパスタ』って。それじゃ焼きそばじゃないですか。ねえ。そこでしょ、ねえ。焼きそば。床屋が焼きそば」

司会
「うーん。井藤さん」

解説
「そこも解釈次第で笑えなくもないんですが、なにより『ゆるふわ』でしょうね。あんな卑猥な単語を屋号の一部に盛り込むことによって、それに反応してしまう同心のスケベ心を風刺しているわけです。お上と言えども所詮同じ人間じゃないか、という町衆の気っ風や諧謔がなんとも痛快なんですね」

タレント
「……」

司会
「落語の魅力は単に馬鹿馬鹿しい掛け合いや辻褄の合わない展開ではない、ということがスマートに表現されているわけですね」

解説
「これはこれは、きれいに決まりましたね。もう解説なんていらないんじゃないですか」

司会
「ははは、ご冗談を。では次回、これまた二葉亭五麺師匠の『F1崩れ』でまたお会いしましょう。東さん、今日はありがとうございました」

タレント
「あ、ありがとうございました」